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東京高等裁判所 平成4年(ネ)161号 判決 1993年5月27日

控訴人(原告)

冨田徳正

ほか一名

被控訴人(被告)

高橋耕造

ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(控訴人ら)

1  原判決を取消す。

2  被控訴人高橋耕造は、控訴人冨田徳正(以下「控訴人徳正」という。)に対し、金一五二二万八七一一円及びこれに対する平成二年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人高橋耕造は、控訴人冨田ちよ(以下「控訴人ちよ」という。)に対し、金五四六万八四一一円及びこれに対する平成二年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人日新火災海上保険株式会社は、控訴人徳正に対し、金三三七万円及びこれに対する平成二年六月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人日新火災海上保険株式会社は、控訴人ちよに対し、金一九五万円及びこれに対する平成二年六月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は第一、二審理とも被控訴人らの負担とする。

7  仮執行の宣言

(被控訴人ら)

控訴棄却

二 当事者の主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠関係は、原判決事実摘示(ただし、原判決二枚目裏七行目の「損害賠償を、」の次に「被控訴人高橋が加入していた」を、同三枚目裏一〇行目の「入通院」の次に「(昭和六二年八月三日から同月二五日まで入院)」を加える。)並びに原審及び当審における記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人らの本件各請求はいずれも理由がないと判断するものでありその理由は、次に付加・訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決四枚目表末行から同裏六行目までを次のとおり改める。

「一 まず、控訴人らの受傷の内容・程度、入通院中の治療経過等についてみると、証拠(甲八、九、乙五の1ないし5、六ないし一四、一七、一九、七八、七九、原審証人二宮浩〔一部〕、原審及び当審における控訴人徳正〔一部〕)によれば、以下の事実が認められる。

1  控訴人徳正は、当初本件事故により頭頂部を被害車両の天井にぶつけたとして、事故当日である昭和六二年六月七日済生会神奈川病院で、同月九日二宮整形外科(医師二宮浩)で診察を受け、いずれも頭部打撲の診断を受けた。

本件事故は追突事故であり、これにより被害車両は五〇センチメートル程前方移動したのみで、上下動は生じなかつたから、本件事故自体によつてシートベルトをしていた控訴人徳正が跳ね上がり被害車両の天井に頭頂部をぶつけたとは認め難い。なお、被害車両にはヘツドレストが装着されているところ、追突事故の場合、被害車両の乗員の身体は、慣性の法則によつて、背部はシートバツクに、頭部はヘツドレストに当たり、後方への過屈曲の度合いは少なく、追突による衝撃は和らげられる。

2  控訴人徳正が同月七日最初に受診した済生会神奈川病院では各種検査を実施した結果、「意識清明、硬直・吐気なし、瞳孔・眼球可動域―光反射正常、腱反射・四肢の動きは正常、動きとか知覚に異常はない、頭蓋レントゲンは正常、神経学的には正常」であり、控訴人徳正に異常がみられなかつたことから経過観察にとめ、投薬その他の処方を施さなかつた。更に、同病院が同月二日実施した神経根テストの結果はいずれも正常であり、同月一五日、控訴人徳正は、吐気、頭痛と頸部・肩・腰部の疼痛を訴えたが、同病院は神経学的には正常、大後頭神経は正常と診断した。

3  控訴人徳正の頸部痛等の症状は、同控訴人の愁訴に基づく神経症状を中心とした自覚症状がほとんどであり、他覚的所見は乏しく、しかも同控訴人の訴えを通じてのものが主であつた。

4  二宮整形外科の同月一〇日の所見では「頭痛なし、吐気なし、四肢の痺れなし、対光反射正常、上腕二頭筋・上腕三反射正常、動き正常」であり、控訴人徳正に異常はみられなかつた。同外科において同月一二日、控訴人徳正に対しスパーリングテスト、イートンテストを実施した結果、頸部の緊張と背部の屈曲・伸展の痛み等の神経症状を認め、同日からホツトパツクのリハビリとマツサージを、同月一四日から頸椎牽引、腰椎牽引を継続的に実施した。その過程で控訴人徳正に上・下肢の痺れや手の母指球筋と右足の萎縮という症状が現れた。

5  頸椎捻挫に対する牽引療法は、少なくとも一か月の急性期を過ぎてから、一般的には二か月を経過した慢性期に入つてから実施するのが通常の治療方法であるといわれており、同外科が控訴人徳正の受傷後八日目から本格的な頸椎牽引を始めたことは、症状の悪化を引き起こす可能性があり、治療上その妥当性については疑問がある。

6  控訴人徳正は、その後昭和六三年四月、二宮整形外科の紹介で横浜市立大学医学部において筋電図等の検査を受けたが、筋電図は正常であり、頸部の神経にも異常は認められなかつた。

7  控訴人ちよは、本件事故から二週間後の昭和六二年六月二二日になつて初めて頸部痛を訴えて二宮整形外科で受診した。頸椎捻挫は通常受傷後二日ないし三日以内に症状が現れるものであり、長くみても受傷後一週間までに症状の現れない場合は頸椎捻挫を発症することはないといわれている。控訴人ちよの頸部痛等の症状は、控訴人徳正と同様、本人の愁訴に基づく神経症状を中心とした自覚症状が主であり、他覚的所見は同控訴人の訴えを通じてのものである。控訴人ちよは、二宮整形外科で受診直後から継続的にリハビリとマツサージを受けてきた。同外科において控訴人ちよに対してもスパーリングテスト等を実施したところ、神経症状を呈し、その後両上肢の痺れ・感覚鈍麻を生ずるに至つた。

8  控訴人らは、両名とも平成二年五月二二日症状固定とされ、同年九月一四日同時に同外科での治療を終えたが、控訴人らの右治療期間は三年を超える長期間に及んでいる。なお、二宮整形外科において控訴人徳正は腰椎捻挫、控訴人ちよは胸椎捻挫の診断を受けているが、腰部は車両のシートで保護され、腰椎は身体の構造上頸椎と比較して外力に晒されにくいものであり、胸椎は肋骨に支えられているものであるから、腰椎と胸椎は軽度の外力によつて損傷を受けることはない。」

2 原判決四枚目裏七行目の「そこで」を「次に」に、同五枚目表三行目の「約二・五メートル」を「約二・〇メートル」に改め、同八行目の末尾に「一方、加害車両は、フロントバンパーに擦過痕があるのみで、変形・破損はなく、損傷の程度は極めて軽微であつた(乙三)。」を加え、同一〇行目の「七・五二km」を「七・五四km/時」と改め、同裏三行目の末尾に「そして、この程度の加速度によつて、控訴人らの頸部、腰部及び胸部にその主張にかかる傷害が生ずる可能性はほとんどない。また、衝突により頸部に生ずる屈曲トルクの無傷限界値は、三五フイート・ポンドであるところ、本件事故によつて控訴人らの頸部に生じたトルク値は四・五フイート・ポンドであり、無傷レベルの約八分の一でしかない。」を加える。

3 原判決五枚目裏四行目の「認定の」の次に「本件事故の態様、加害車両・被害車両の損傷の程度、追突時の衝突速度、衝撃加速度、控訴人らの傷害の内容・程度・症状、治療経過等の」を加え、同五行目末尾の「原」から同六行目の「事実」までを「本件事故と控訴人らの主張する症状との間に因果関係」と改める。

二  したがつて、控訴人らの本件各請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 時岡泰 大谷正治 小野剛)

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